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トランスデート(1)

夢野せかい


1.初デート

道雄は、クラスメイトの理絵に一目惚れしている。かと言って、電話したり、手紙を出したりしたことはない。
 理絵の近くにくると、顔が火照ってくるほど、純情なのだ。
 純情なだけに、無意識のうちに理絵の後ろを、黙って歩いていることが度々あった。いわゆるストーカーだ。

 そんな道雄に、突然、理絵が声を掛けた。
「どうして、私の後を付けてくるの?」
 突然の理絵が言った。
「ぼ、僕く・・・」
そう言いうのが精一杯であった。
「もしかしたら、私が好きなの?」
と、ズバリと言った。
道雄は顔を真っ赤にして頷いた。

 理絵は、暫く黙っていた後
「私、嫌いなの・・・、男の人が」
と、言った。
 ガーン! やっぱしダメなのか・・・。
 道雄が落胆した顔をして、ションボリしていると、
「勘違いしないでね、別に山本君が嫌いな訳じゃないのよ」
えっ! どうゆうこと・・・。
「私、男の人が嫌いなだけなの」
 男の人が嫌いって・・・、どうゆう意味 もしかしたらレズ?
そんな・・・、道雄は、一目惚れした理絵がレズとわかって、意気消沈した。

数日後、同じ高校の3年生、”冴子”から、声を掛けられた。
「あなた、山本道雄さんね?」
「は、はい、そうですけど」
 冴子は道雄の顔を上から下まで、ジッと見た後、
「道雄さんって、可愛い顔をしているわね」
驚くべき言葉を言った。
「何ですか、いきなり」
と、怒って言った。
 確かに、道雄は可愛い顔をしている。そしてよく「女の子と」間違えられる。母のミドリなんかは、いっそのこと女の子になったら、とまで言ったことがある。
「驚かせてご免なさい。私の名前は冴子。理絵が『お姉様』と呼んでいる者よ」
 お姉様・・・、姉ということか。このとき、道雄はレズの女役が男役を「お姉様」と呼ぶことを知らなかった。

でも、突然、お姉さんが何のようだろう・・・。
「道雄さん、理絵が好きらしいわね・・・。理絵から聞いたわ」
そんなことを、お姉さんに言ったのか・・・。恥ずかしいなあ・・・。
「でも、振られたでしょ?」
 道雄小さくうなずいた。
「ご免なさいね、実は、理絵は、男性恐怖症なの・・・」
「男性恐怖症?」
「ええ、小さいとき、中年の男性に、イタズラをされそうになって、それ以降、男の人を見ると、どうしても嫌悪感が先に立つの・・・」
 理絵が、小学校2年生の頃、中年の男性に、空き家に連れ込まれ、もう少しで、犯されそうになったことを、話した。
そんなことがあったなんて・・・。

冴子は、道雄の顔色を見ながら、
「ねえ、そこで、道雄君にお願いがあるの?」
「何ですか、僕に出来ることなら?」
道雄は、途端に元気になった。

「ねえ、道雄君に理絵の男性恐怖症を治していただきたいの」
 治すだなんて・・・。
「やっていただける?」
理絵と付き合えるなら何でも・・・、でもどうやって・・・。
「ええ」
「嬉しいわ」
「でも、どうやって治すのですか?」
「その前に、道雄君に理絵の警戒心を取り除くようになって欲しいの?」
「わかります。でもどやって?」
「簡単よ。道雄君が男の子でなくなればいいのよ」
「男の子でないって・・・、もしかしたら・・・」
「そう、女の子になるのよ」
「女の子になる!」
 余りの言葉に、道雄はそう叫んだ。
「そうよ。出来るでしょ・・・?」
「つまり、僕に女装をせよと」
「演技よ」
「でも・・・」
「さっき、理絵のためなら何でもすると言ったのはウソなの?」
「ウソじゃないです。でも」
「何がでもよ」
「もし、女装した僕を理絵ちゃんが見ると、変態だと・・・」
「大丈夫よ!理絵はそんな性格じゃないわ。逆に、自分のために女の子になってくれたと、感謝するわ」
 道雄の、口実を簡単に否定した。
「で、でも・・・、他の人が・・・」
「他の人が・・・、何?」
「他の人の、女装していることがわかったら・・・」
「大丈夫よ。道雄君は、可愛いから、絶対、女の子にしか見えないから」
それって、褒めているのだろうか・・・。
「でも・・・」
「じれったいわね。それほど理絵に為に、何かすることが嫌なの?」
「嫌じゃありません!」
「だったら」
 道雄は、小さく頷いた後、
「でも、僕、女の子の服なんか」
「そんなこと、わかってるわよ。お洋服は、私が用意して置いて上げるわ」
そう言われると、何もいえない。
「はい」
「でも、むだ毛だけは処分してきてね?」
「むだ毛?」
「ええ、すね毛を生やしている女の子なんて、絶対にいないし、それこそ、理絵に見られた、嫌われるわよ。だって、理絵に、イタズラしようとした人、毛むくじゃらの男だっただもの」
 それは、ウソであったが、道雄にむだ毛を処理させるため、そう言った。
「分かりました」
「じゃ、今度の日曜日の10時頃に、この公園に来て」
「はい、10時ですね」
「ええ」
「その前に、サイズを測るわね」
と、言って、冴子は別れ際に、道雄の色々なサイズを測っていった。


 約束の日、道雄は、言われたとおり手と足のむだ毛を処理して、約束の公園に来た。
 冴子は、道雄を上から下まで見回した後、
「ちゃんと、むだ毛を処理してきた?」
と、聞いた。
 道雄は顔を真っ赤にして、俯いた。

 冴子を、道雄を自分の家に連れて行った。
あれっ! 名字が違う・・・。確か、姉だと言っていたのに・・・。そうか、義姉なんだ・・・。
「じゃ、服を脱いでくれる?」
「あの? どうしても、女の服を着ないとダメですか?」
「何を言っているの、今更! それに、女の服を着るんじゃなくて、女の子になるのよ」
「・・・」
「分からない?」
「はい」
「言葉遣いや、仕草も女の子と同じに様にやるのよ」
「言葉遣いも・・・」
「当たり前でしょ。それでなかったら、理絵の警戒心が解けないじゃない」
 言われればその通りなんだが。
「さあ、服を脱いで」
道雄は、カッターシャツと下に着ていたシャツを脱いだ。
「じゃ、最初にこれを付けて」
と、言って、何か変な物を胸に付けた。
「何ですか?」
「へへん、人工オッパイよ」
と、言う。見ると、軟式のテニスボールの空気が抜けた物だ。それを両面テープで付けたのだ。
「じゃ、ブラを付けましょうね」
と、言って、道雄の両手にピンク色のブラを通し、後ろに回した。
 ブラを付けるとテニスボールの柔らかい弾力が胸に伝わってくる。本物の乳房を持った感じになった。
 こんなの・・・。
「いい感じだわ。じゃ、次はスリップね」
と、言って道雄の頭の上からワンピースのような柔らかい白い布が降りてきた。
スリップってこれなのか・・・。道雄は、母が何時も付けているから、形は見たことがあるが、スリップと言う名前は知らなかった。
「次は、このブラウスね」
と、言ってレースが付いた丸い襟の柔らかいブラウスを渡された。
 道雄は渡されたブラウスに手を通した。そしてボタンを填めようとすると、あれっ!
「女の子のボタンは、反対に付いているのよ」
と、教えてくれた。あっ! 本当だ。そんなこと、知らなかったなあ・・・。
道雄がブラウスを着終わると、冴子は
「じゃ、今度は、下を脱いで頂戴」
 道雄は、ズボンを脱ぐのはとても恥ずかしかったが、ここまできたら、脱がないわけには・・・。
 でも、良かった、スリップでパンツが隠せて・・・。
「じゃ、こんどは、スカートね」
と、言って、冴子は、道雄にフレアースカートを渡した。
 これを、穿くのか・・・。
「ねえ、どうしても穿かないと」
 道雄は最後のあがきを言った。
「もう、諦めなさい」
「でも、・・・」
「どうしても嫌だというなら、お洋服代返してもらうわよ」
「えっ! お洋服代」
「そうよ、だって、これ道雄君のために買ったんだから」
冴子は、道雄に諦める口実を与えるため、そう言った。
 そんな・・・。そう言われると、もう断れない。
 道雄は、スカートに足を通した。そしてスカートのホックを留めようとするが、細くて止まらない。
「何やっているの、女の子のウエストは、一番細いところよ」
と教えてくれた。
 へー・・・。スカートを持ち上げて胸の直ぐした当たりでホックを留めると、止まった。サイズは合っているようだ。
 ファスナーを引き上げると、何とか見栄えがする。
「じゃ、お化粧をして上げるから、そこに座って、目を閉じてね」
えっ! 化粧・・・。グズグズしていると、手を引っ張られてしまった。
「私が、良いと言うまで目を開けてはダメよ」
 道雄は黙って頷いた。
 冴子はテキパキと道雄の顔に化粧を施しだした。ファンデーションを少し塗った後、何か眉毛や、頭の先でハサミを使っているようだ。
「何を、・・・」
と、言ったら。
「黙ってて、もう少しで終わるから」
と、止めない。
「変な風に、しないでくだいよ」
と、心配そうに聞いてみた。
「大丈夫、私を信じなさい」
「終わったわ、じゃ。今度は両手を出して」
と言われた。両手を出すと、冴子は指に何かを塗りだした。もしかしたら、マニュキア・・・。
「ねえ、何をやっているの」
「少し黙ってなさい。終わったら、分かるから・・・」
と、言って、道雄の心配そうな素振りを無視してドンドン変身させていく。
「じゃ、今度は・・・」
と、言って、頭の上に何かを被せた。フワッとした繊維が頭全体を覆う。もしかしたら、カツラ・・・。
 次に頭の上で何かを整えている感じが続いた後、頭の上に何かUの字型したものが被ってきた。
「終わったわ。もう、目を開けても良いわよ」
と、言った。
 恐る恐る目を開けると、男の道雄は何処にもいなかった。そこにいるのは、長い髪をした可愛い美少女だ。
「これが、僕・・・」
「そうよ。可愛いでしょ」
 思わず頷いてしまった。 
「じゃ、最後にこれを」
と、言って、可愛い花柄のショーツを渡された。
「えっ! パンツも」
唯一残っていた、男としてのプライドを保っていた下着まで替えるなんて。
「別に、下着まで替えなくても」
「ダメ! 下着を替えないと言うことは、心のどこかに、私は男ですと言う心が残っているからでしょ」
「・・・」
「さあ、替えなさい」
と、言って冴子は道雄に下着を押しつける。

 ココまで、変身させらっれたら、もう逃げれない。道雄は、冴子に背を向け、スカートの中に手を差し込んで、トランクスを脱いだ。
 そして、渡されたショーツを穿いた。スカートってこうゆうとき、便利だなあ。変なところに感心してしまった。
「終わった?」
と、後ろから冴子が言った。
 道雄は顔を真っ赤にして、俯きながら冴子を見た。
冴子は、振り向いた道雄をゆっくりと上から下まで見下ろした後、
「ねえ、道雄君、それでも、足を剃ったの?」
と、言った。冴子の目から見ると、産毛が沢山付いており、とても剃ったとは思えないのだ。
「そったけど」
「でも、産毛が残っているわよ。・・・、今更、剃るのも何だから・・・。パンストを穿きましょ」
 パンストだって! そんなのを穿くなんて・・・。
 冴子は、茶色のパンストを手渡してくれた。でも、仕方がない・・・。
道雄がパンストを穿き終わると、冴子は
「これなら、いいわ」
と、言った。


ピンポーン、ピンポーン
インターホーンが鳴った。
「良いタイミングだわね。ちょっと隣の部屋で待ってて」
と、言って、冴子は道雄を隣の部屋に行かせた。
 そして、玄関に言った。するとら、直ぐに、
「お邪魔します」
と、言う理絵の声が聞こえてきた。えっ! そんな心の準備が・・・。
「さあ、入って」
「はい、でも、お姉様のお部屋、何時、来ても素敵な部屋ですね」
「有り難う、そう言ってくれるのは理絵ちゃんだけよ。ママなんか、何時も汚いから掃除しなさいって、うるさいのよ」
 冴子は、さもうるさいような口振りで言う。
道雄は、隣の部屋で、顔に一杯汗を垂らし、息を殺して二人の話を聞いている。

 暫く雑談が続いた後、
「ねえ、理絵、実は、貴方と、一緒にお茶を飲みたい、いう人がいるんだけど?」
 突然のデートの話に理絵は、
「えっ! 私・・・、男の人とは・・・」
理絵は、動揺し、言葉が上擦っている。
「大丈夫よ、相手は、女の子だから・・・」
「女の子ですか、なら・・・、でもどうして・・・」
理絵は、相手が女の子と聞いて、落ち着い言葉になった。
「まだ、直らないの、男性恐怖症」
「そんなこと言ったって・・・、私・・・」
「確か、道雄君とか言っていたでしょ、理絵の後を付けてくる人?」
 えっ! 突然の自分の名前に、道雄はビックリしていた。
「ええ・・・、でも・・・」
「可愛い顔をしている男の子だと、言っていたじゃない。」
「ええ、そうなんですけど・・・」
「だったら・・・」
「でも、やっぱり・・・、男の人とは・・・」
「もうダメね・・・、早く治さないと、お嫁に行けないわよ」
「私、別に、お嫁に行かなくても・・・」
「若い女の子が、今からお嫁に行かないだなんて、言うもんじゃないわよ。・・・まあ良いわ、その話は・・・」
「すいません」
「別に謝ることないわ・・・。で、どう、お茶を飲みに行く」
「でも、どんな人かわからないので・・・」
「大丈夫、私が保証するから・・・、年は同い年よ。髪が長くて目が綺麗で・・・、とても可愛い女の子よ」
それなら、でもどうして、私と・・・。
「でも、どうして私と・・・」
「憧れているんじゃないの、理絵に」
「そんな! 私、そんなに素敵じゃないのに・・・」
と、理絵ははにかみながら言った。
「そんなことなわいよ。とても、可愛くて、優しくて、お淑やかで、女の子らしく、誰だって、憧れるわよ」
「そんな・・・」
「じゃ、一回だけで良いから、お話しして上げて」
「はい」
と理絵はかわいい声で言った。

「実は、その子、今、来ているの」
「えっ!」
「呼ぶわね・・・。道子ちゃん」
と呼びながら、道雄がいる、隣の部屋に入ってきた。
「冴子さん、私・・・」
と、恥ずかしそうに道雄は言った。
「今更、何を言っているの、早く」
と、言って道雄の手を握って、引っ張って行く。

 理絵と道雄の目が合った。道雄は顔を真っ赤にして俯いた。理絵も、つられて俯いた。
「紹介するわね。こちら、道子さんよ」
「道子です」
と、道雄は、できるだけ高い声で言った。
「こんにちわ」
と、理絵は返事をしながら、どこかで見た顔だなあと思っていた。
冴子、理絵に考える時間を与えず、
「じゃ、お外で、何か食べましょ」
えっ! そんな・・・、と道雄は思ったが、変身させられたあとでは、口に出すことはできない。

 冴子は理絵の手を握って、外に出た。道雄は観念して後ろから、ついてくる。
少し歩いて、公園までくると、冴子は、
「私、別に用事があるから、二人でお茶でも飲んできて」
と、言って、冴子は、強引に二人から離れた。
そんな、こんな格好で、理絵ちゃんと二人きりだなんて・・・。

冴子が行くと、
「もう、お姉様って、何時も勝手なんだから」
 理絵は、冴子の勝手さに怒っている。
「じゃ、道子さん、何処へ、行く?」
「何処へって?」
道雄は困惑していった。
「じゃ、しばらく、歩きましょうか」
「ええ」
 理絵は、先に立って、歩き出し・・・。暫くして急に、立ち止まった。
どうしたんだろう・・・。
 理絵は、
「道子さん、手を繋ごう」
手だなんて・・・。
 道雄が顔を真っ赤して、いると、理絵から手を握ってきた。

 その状態で暫く歩いた後、再び、理絵が立ち止まった。道雄をマジマジと見た。
 道雄は、真っ赤になって、下向きなるべく顔を見れら内容にした。
「やっぱし!」
「・・・」
「道子さんって、実は道雄さんなんでしょ」
突然、理絵がズバリと指摘した。
「ち、違うわ」
と、言った道雄の声はうわずっている。
「ウソ! ウソが下手ねえ・・・。怒らないから、はっきり認めなさい。それとも大きな声を出しましょか?」
「そんなことやめてください」
「じゃ、認めるのね?」
「はい」
「道雄さんて、こんな趣味があったの」
「違います。これは、冴子さんが無理矢理」
 やっぱりと、理絵は思った。
「でも、本当に嫌なら断れるでしょ?」
「それは・・・」
「はっきり言いなさい」
「僕・・・、わ、私、理絵ちゃんが好きなんです」
と、顔を真っ赤にして言った。
その言葉に、理絵も顔を真っ赤にし
「ウソ」
と、小さな声で言った。
「本当です」
 長い沈黙の時間が過ぎた。

 道雄は、小さな声で
「やっぱり、可笑しいですよね」
と、道雄は言った。
「・・・」
「僕、冴子さんに、すぐにわかっちゃうと言ったんです」
理絵は、顔を横の振って、
「ううん、道子ちゃんはとっても可愛くて、女の子らしいわ」
えっ!
「私、最初、見たとき、ホントに女の子だと思ったもの」
「・・・」
「確かに、歩いたり、立ったりする仕草が、本物の女の子と、ちょっと違っているというのは感じるわ。でも、本物の女の子でも、道子ちゃんより、ひどいたち振る舞いをする女の子は沢山いるわ」
 道雄は、だったらなぜ・・・。
「どうして、わかったかというとね・・・。それは手よ。女の子の手はもっと、細くて、柔らかいの」
ガーン!
「手だけは、どんなに道子ちゃんが、お化粧して可愛くなっても、ダメだと思うわ」
 そう言えば、手だけは、どんな変えたくても、変えれないと聞いたことがある。
「・・・」
「でも、それ以外は、まったく女の子と違わないわよ。ホントよ」
 道雄はうれしいような、悲しいような気持ちだった。
「私、道子ちゃんなら、付き合っても良いわ」
「えっ!」
と驚きの顔で理絵を見た。
理絵は顔を真っ赤して俯いている。

続く